FJSBのKKDについて

 私は飲食店を探すのも好きだし料理も得手なのでそこそこいいもん食ってると思うが、冨士そばのカレーかつ丼は至高である。最高と至高の戦いとかどうでもいい。冨士そばのカレーかつ丼の一人勝ちだ。美味しんぼの最終回は雄山を冨士そばに連れて行って終了だ。そのあまりの説得力に記事にするには内容が乏しいだろうからついでに冨士そばの各店舗の独自メニューでも取材して行ったらいいと思う。

 だってカレーでかつ丼なのだ。勝ちだろう。

 カツカレーと同じだと思った日本語の情緒のわからんバカは一生カツカレーにソースだばだばかけて食ってろ。カレーにカツが載っているのではない。かつ丼にカレーがかかっているのだ。カレーかつ丼にこれ以上の説明はいらない。それが旨そうだと思えないバカは一生おしゃれカフェでロコモコ丼でも食っていればいい。

 そもそも冨士そばがすばらしいのだ。行った事ありますか、冨士そば。率直に言って冨士そばは蕎麦としては旨くない。立ち食い蕎麦の中でもクオリティは微妙である。クオリティを求めるなら靖国通りをJR新宿駅方向に戻って歌舞伎町のいわもとQに行こう。(いわもとQの件についてはまた改めてお話しします)冨士そばは、ラーメン二郎がラーメンではなくラーメン二郎であるのと同様、そばではなく冨士そばなのである。

 私が一番好きな冨士そばは新宿伊勢丹のパークシティ3という建物にある。伊勢丹でしかも隣りはマリアージュフレールというお紅茶の専門店である。このビルのテナントに冨士そばを採用した伊勢丹の人にカレーかつ丼を奢りたい。冨士そば愛好者はマイベスト冨士そば店舗がいつも心にあるはずだ。なぜなら冨士そばは店ごとに雰囲気も味もちがうからである。オリジナルメニューもあり、この伊勢丹の店舗にはそば茶プリンという誰が頼むのかわからないメニューがある。そば茶プリンを頼んだ事は無いが、ここのカツ煮は卵が半熟でうまい気がするのと店が狭くてこ汚いのと、おじいちゃんとおじちゃんの間くらいの店員が流行のワンオペでてんやわんやしているのが好きなのでいつもこの店舗を使う。近くの新宿三光町店は広くてきれいだがカレーカツ丼におしんこ(てゆーか福神漬け)がつかないのだ。

 私は24時まで近くの新宿ゴールデン街でアルバイトをしており、その帰り道にいつも「今日はそばにする、今日はそばにする、ゆず鶏ほうれん草、ゆず鶏ほうれん草」と唱えながらここまでやってくる。富士そば恋しさのあまり靖国通りをひた走ることさえある。カレーカツ丼は何しろカツ丼にカレーがかかっていてその下には当然米があるという食い物なので、うら若き乙女が24時に食うにはふさわしくない(このうら若き乙女、当然晩飯は晩飯でしこたま食っている)ことはわかっている。だからいつも、今日こそはそばで我慢しよう、肉が載ってるやつでもいい、大海老天そば(すごくフォトジェニックな食べ物なのでぜひググってみてほしい)にしてもいいから、と唱えながら靖国通りを歩いているのに、不思議な事に気付くと券売機に560円が吸い込まれ、私はゆず鶏ほうれん草ではなくカレーかつ丼と書かれた食券を手にしているのである。「どうしてここにカレーかつ丼の食券が!?!?」あっけにとられたままカウンターに座り食券を差し出す。この時間、工事が終わる時間なのかニッカボッカはいた兄ちゃん達に囲まれて食う状況に陥りがちである。これがまたいい。ちょっと怖いけどそれがまたいいのだ。こういうスピーディーに食うべき店では少々恐縮しているくらいで食べるのが旨いのだ。早く食べて行かないと!自分は場違いなのでは?そういう気持ちがまたスパイスになるものである。

 早く食べて行かないとならないのは周りを怖い兄ちゃんたちに囲まれているからのみならず、終電が近付いているからでもある。時計を確認する。終電まで15分あればカレーかつ丼を頼んで大丈夫だ。5分で提供、5分で完食、5分で駅のホーム。ある種のトライアスロンのような完成された配分である。15分を切ったらそばに変更する。そして富士そばによれないくらいなら終電を諦める。

 カレーかつ丼は、ただかつ丼にカレーがかかっただけの食べ物である。テレビドラマ化もされた「めしバナ刑事タチバナ」という孤独のグルメのフォロワー系の漫画は、第一話でカレーかつ丼を取り上げており(激シブ!)、主人公の刑事はそれが原因で出世を逃す。彼はカレーかつ丼について「1+1は3じゃなくてもいい、2でいい」と述べている。確かにそういう食べ物なのだ。立ち食いそばならではのふにゃふにゃのとんかつは甘いダシがシミシミ。そしてあまあまでとろとろのカレー。そして、そして、ご飯にも、甘いカツ煮のダシが、しみてるの!!!!!最高!!!!ひゅーひゅー!!!そして急いで食わねばならぬこの状況!ゆくてを阻む猫舌!!ほとんど飲み込むようにかき込んで、席を立つ。急いでいるそぶりを表に出さぬよう、極力気の抜けた声で唱える「ごちそうさまでーす」。コンロのほうを向いたままの店員さんの「ありがとうございました」を背に、駅へ走る。急がねばならぬ状況がカレーかつ丼に集中させるので極端に狭くなっていた視野が広がり、外気が心地よくほほを撫ぜる。最高。

 だから海原雄山も、新宿でウイスキー注ぎ散らかすバイトして、よっぱらって、そして富士そばにくればいいのです。それで不毛な戦いは終わるのです。食べ物に文句を言うのではなく、それを楽しめる状況を自ら作り出すことが重要なんだよォ!あれ最終的にカレーかつ丼褒めてなくない?あれ?でもとにかくカレーかつ丼は最高です。普通に食べても最高だよ。だってかつ丼にカレーがかかってんだよ。幼稚園時代の私に教えたらちびっちゃうくらいの贅沢だよ。なんていうかさ、「ピザまん」みたいなうれしさなんだよね。だってピザってあんなに窯で焼いたりしてこだわるものなのに、それをふっかふかのまんじゅうに入れて「ピサ」とか称しちゃうんだよ。しかも旨いんだよ。あ、ピザまんたべたい…。

 

(「ふじ」と「かつ」の表記揺れはめんどいので無視)