コーヒーなんて飲めなくていい

 おっさんのドブみたいな口臭ってコーヒーとタバコでしょ。だから、コーヒーなんて飲めなくていい。コーヒーなんてドブだ。ドトールの泥水をすするのだ。みんな味なんかわかんないで飲んでるに決まってるし、コーヒーのよさっていうのは、「ドブってはまってみると意外にあったかいなァ」くらいのもんなんだから、いいんだ、コーヒーなんて飲めなくて。絶対紅茶のほうがうまい。すてきな喫茶店はたいてい他の飲み物もうまいのだし、喫茶店にはいって、自分はブレンドとタバコで、連れの女の子がぶどうジュースなんか頼もうもんならもううれしっくって目尻が地面につかんばかりに下がっちゃうよ。だから、コーヒーなんて飲めなくていい。
 だいたい、なんでそうコーヒーばかりを羨むのだろう。米の味のちがいがわからない人や魚の種類がわからない人だって、同じくらいか、もしかしたらもっとずっと損をしているのに。
 
 まあコーヒーの味は、わかるんですけれども、うまいコーヒーはあるけれど、やっぱり夏の日の麦茶のほうがうまいのだ。こたつで番茶にはかなわないのだ。亜熱帯で喫まれるマテ茶みたいなふしぎな魅力や祝祭性は、夏の日の麦茶や、連れの女の子が頼む紅茶のほうに、絶対ある。
 
 なにより、コーヒーが飲めないことを残念がっているあなたがかわいいから、だから、コーヒーなんて飲めなくていい。