この世のどこかにあの子よりも私に似合う服があるのかな

 Kitsuneというブランドの、それはそれはすばらしいニットがずっと欲しかった。
 欲しくって欲しくって、伊勢丹へ行って眺めてはため息をついていた。しばらく置いてあったけれどもそのうちなくなってしまった。欲しかったなァ、欲しかったなァとずいぶんクヨクヨしていたが、そもそも買える値段でもなかったし、冬のセールに浮かれたりして印象は薄れた。でもそういう、欲しかったのに買わなかった服っていつまでもふと思い出すもので、ああ買ってしまえばよかったのに、とちょいちょい考えていたのだった。
 そのニットが最近夢に出た。
 それはレディースのニットで、でもあまり女性的なところのないVネックのシンプルな形をしていた。後輩の男の子がそれを着ていて、ためいきの出るほど似合っていた。夢の中で、私はためいきをついたのだった。ああ、そうだよねェ、と思ったのだ。
 それからそのニットのことを考えない。私のKitsune欲しさは成仏してしまったのだろう。成仏するというのは、自分のことを思い出すということだと思う。
 
 私はポートレートを撮っている。大抵の場合、相手は(私が思うに)きれいな女の人だ。で、服を貸したりする。別にそんなにコンセプチュアルな格好をさせるわけではないので、私の普段着なのだけど、もう絶対、私より似合っているのだ。似合うと思って着せてんだから当たり前なんだけど、私だって似合うかしらんと思って買ったのに。ああ服にカワイソウなことをしているなァ。味噌汁が上澄みと味噌の濁りにわかれていくように、ユラユラとそんな気持ちが沈殿していく。